私には幼少の頃より憧憬を懐いて居りました、職業が一つ御座います。
そして、その気持ちは今も猶、心の何処かで燻って居るので御座います。
その職業とは、『執事』なので御座います。
されど、如何様にすれば『執事』と云う職業に就く事が出来るのか、私には解らなかったので御座います。
はい。
嗚呼、『執事』に為りたい……。
独占貿易により巨万の富を得、慈善事業にも手を尽くす、厳格な旦那様。
お若く、お美しいけれど、御身体が薄弱な奥様。
おしゃまで、珠の様にお可愛らしいお嬢様。
腕白で、我が儘だけれど、奥様には従順なお坊ちゃま。
寝たきりで、滅多にそのお姿を現さない旦那様のご母堂。
嗚呼、『じい』と呼ばれたい……。
豪奢な洋館のなかで、個性的な使用人たちと供に御奉仕する毎日。
腕は一流だが、博打に身上を傾ける料理人。
派手好きで、毎週の様にころころと男が替わるメイド。
無口で、何やら怪しい過去を引き摺る庭師。
旦那様がパトロンである青年画家。
嗚呼、『じいやさん』と呼ばれたい……。
ある日、親睦を深めるべく行われる晩餐会。
事業に失敗し、莫大な借金を抱える旦那様の弟御。
若くして有能な、どこか旦那様の面影がある男性秘書。
その他数名の挙動不審な関係者たち。
そしてどう云う訳か、紛れ込んでいる有名探偵の孫とその彼女。
嗚呼、『あいつ』と陰ながら怪しまれたい……。
次次と起こる凄惨な殺人事件。
もちろん外は嵐。崖崩れにより道は閉ざされ、携帯電話は通話不能に。
まず始めに旦那様が殺害される。
そしてあらかた怪しげな人人が無残に殺された頃。
探偵の孫が得意げに私を指差す。
嗚呼、『あなたが犯人です』と断定されたい……。
秘書の母親が、実は私の妹だと指摘されたり、
奥様が、実はその秘書の種違いの姉だったと判明したり、
さらには私と妹は実は義理の兄妹で、奥様は私の娘だった。
などと云う反則技が罷り通ったりする。
当たり前だがその頃すでに秘書は死亡している。
嗚呼、そして私は『証拠は有るのですか?』などと嘯いてみたい……。
無論少年探偵は、動機・アリバイ・密室の謎など、全ての疑問を証明する。
窮した私は、口惜しげに故人の過去の悪行を弾劾。
そして全てを語り終えた後、傍らにあったワインを飲み干し、服毒自殺を図るのである。
駆け寄る奥様とそのお子様たち。紛れもない私の娘と孫たち。
愛おしい孫たちは、最後に感極まり、涙ながらにこう言うのだ。
『おじいちゃん死なないで』
嗚呼、『執事』に為りたい……。
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